その18 『今日生まれたあなたに』

天野順一朗が描く、特にオチもなんにもない、4コマ漫画風回想絵日記。

僕の大切な人と、そして今日が誕生日のあなたに。
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一昨日くらいから、妻は自分の口であの震災の時の話をするようになりました。

今日、追悼の報道をテレビで見ながら、妻は泣きました。だけど、一度も画面から目を逸らしませんでした。チャンネルも変えませんでした。

僕は、震災のニュースにふれるたび、まず妻のことを想います。

妻の目と心を通して、あの日の出来事や、被災された地域の今を見ています。

僕は、まず妻なのです。

僕が彼女を見つめるたびに、彼女の心が少しずつ回復している現状をみることで、東北を思うのです。

復興が少しずつ始まっているところ、まだ何一つ復興が進んでいないところ、それは被災地、直接の被災はしなかったにせよ何らかの心のダメージとなってしまった方、それぞれにそういう部分があると思う。

傷が癒える、とか、悲しみを忘れて、とか、そういうのは違う。なかったことにはならない。

涙は出るんだ。怒りも湧くんだ。

でも、前はもっと笑えていたかもしれない。

いつの間にか悲しみと怒りが大きくなって、笑顔が見つけにくくなってしまったのかも知れない、そう考えるようにになりました。

喜怒哀楽のバランスが、妻の中で取れるよう僕は芸人を続けるのです。

悲しみが大きいなら、同じくらいの笑顔を届けられるよう、僕は自分の芸を磨くのです。

今日、生まれたあなたに、大きな大きな笑顔が届きますように。

生まれてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。来年の今日も、悲しみと同じ大きさの幸せを届けられますように。