『ヌーの食卓』終演

6月は東京に行っておりました。

2011年に初演のヌーの食卓を再再演。ゲリラ豪雨ありーの、新宿で大騒ぎがありーの、いろんなことがあった東京公演。

そのことを、少し。

初演・再演・再再演

このヌーの食卓、テアトロの新人戯曲賞で3次まで残ったり、名古屋の演劇フェスでグランプリとったりって、そういう情報を東京の制作チームが出してくださって、「ほう代表作なのか」と思われる方もいらっしゃったようで、有難いやら恥ずかしいやら、だって、初演時は一晩で無理やり書き上げた本だもの。天野に代表作なんてないんです。まだまだ新人です。

さて、三回上演された作品、全作品内容がちょっとずつ違います。

初演の舞台は現代の架空の都市。
再演は1996年、阪神淡路大震災から1年後の東京。
そして今回は現在の東京。

初演は希望に溢れたハッピーエンド、再演はすべてを覆すバカエンド、そして今回は夢を諦め地方(愛知)に帰る漫画家志望の男の話でした。

三人の謎の女

この作品には喪服姿(もしくは黒い服)の謎の女が登場し、結局最後まで彼女の正体は不明のままです。

初演と再再演の男性キャストはほぼ同じ。配役の違いはありました。名古屋で上演した再演は名古屋の俳優さんとの共演で、3回上演された謎の女は毎回違う女優さんが演じてきました。

初演の謎の女は、今回の東京公演で受付をしてくれた小林愛奈。
二代目謎の女は、劇団「放電家族」のいまい∑。そう、妻。僕が東京で悪さしてないか心配になったのか東京まで見に来てくれました。
今回、急なオファーにもかかわらず三代目謎の女を引き受けてくれたのはPUZZLEのダンサーであり、振付師であり、そして女優の水野奈月ちゃんでした。

三人の謎の女が勢揃いした東京公演、とても華やかで楽しかったー。

何故、ヌーなのか

よく聞かれます。

東京でルームシェアしている3人の草食系男子(ヌーの群れ)に謎の女(ライオン)が乱入してきてラスト肉を差し出す。コレは何の肉か?との問いに「ヌーの肉」だと答える女。

と解釈して頂いても全然OKなんですが、これは2011年の震災を受け、書き下ろされたものでした。

男たちの部屋(日常)に得体のしれない謎の女がやってくる(災害)。
隣のキッチンで何かを作っているが、それが何なのかわからない。テレビからは近所で殺人があったとのニュース。不安が急に襲ってくる(これは愛知という遠隔地であの震災の報道を連日見た自分の感情でした)。

ラスト、彼女はヌーの肉を置いて去っていきます。初演、再演では、「じゃ、サヨウナラ」と合鍵を置いて去っていった女でしたが、今回は「じゃ、また」と再訪を予感させるように改稿しました。これはいずれ大地震が起こると言われている愛知の人間として、サヨウナラでは終われないという思いから台詞を変えました。

女が去った後も、ヌーの肉は部屋に残され匂いを放ち続けます。

ヌーはヌークリア(Nuclear=核)であり、彼らのこの後の日常にも影響を与え続けるもの、として登場させました。

愛知の人間が感じたことをちゃんと書く

僕の作品は、大抵大きな事件事故を背景に書かれることが多いのですが、書く際に気をつけていることは「傍観者であること」を前提として書く、ということです。

傍観者、例えばいじめのニュースなんかで加害者とともにネガティブなニュアンスで報じられることが多いのですが、意識的にせよ無意識にせよこの立場に置かれることが多いんじゃないかと思います。

ニュースで事件を見ている。
駅で誰かが喧嘩している。
公園で女の人が泣いていて、隣で男が謝ってる。

誰か知らない人が事件の当事者の場合、僕は常に傍観者にならざるを得ません。

世界に自分は独りしかいませんが、知らない人は山のようにいて、当事者になる機会と傍観者になってしまっている機会では、圧倒的に後者の方が多いのです。

僕は傍観者であることとなるべく誠実に向き合いたいと考えています。愛知の人間として、あの震災をどう感じ、思い、劇作家としてはどのように描いていくのか。

広い意味では傍観者も当事者だとは思うのですが、勝手に、想像や空想で、あたかもその時現場にいました、という物語は(まったく書かないとは言わないが)なるべく書かないようにしています。

あの日、愛知には愛知の震災があったのです。僕は「ヌーの食卓」を書き下ろす際にそんなことを考えていました。もちろん、その部分は表面に出過ぎないように、あくまで夢と現実の中間でフワフワしている男たちの話として書くことが、僕なりの向き合い方でしたし、今も変わらない思想です。

これからも書く

文章は、やはり自分の思ってることを限定的にしか伝えられないので、ひょっとしてこのブログで誰かを傷つけたり怒らせてしまったら、本当に申し訳ないと思いつつ、しかしどのような意図や状況で書いたのか、ということは僕自身への備忘も兼ねて書かせてもらいました。

想像以上にお客さまにご来場いただき、温かいご意見、厳しいご意見様々いただき、その全てが僕にとって大切な宝物となりました。

これからもちゃんと書いていかねばと思っています。テーマ、ジャンルは様々だと思いますが、これからもよろしくお願い致します。

ではでは。またまた。